「神無月」


パンパン。


拍手を打つ音が響く。

一心不乱に願をかける。


最近ここに来て願をかけるのが日課になっている。
勿論その内容は・・・・

ここはフラフラと歩いていた時に見つけた小さな神社。

ホンの気まぐれで学校を抜け出して歩いていた時に
フと目に付いた。


小さな小さな神社。


だけど、何か気になって足を踏み入れてみた。

ここには珍しく緑が多い。
大きな木々がかなりあり、ここ一体の森の中にあるのだとわかる。


林道を抜けて奥の方に見える社まで行って見る。

かなり古いらしく
所々朽ちてはいるが全体としてはまだ綺麗な方だと思う。


社の前はちょっとした広場になっていて入り口の所に
この神社の案内板と社務所があるだけ。


案内板を読んでは見たけど、記紀神話等には詳しくないので
内容は良く分からなかったけど。
まあ、普通の神社なんだろうな位しか。


今日も日課を終え戻ろうとした時。

「汝が願い、聞き届けようぞ」

本当、ビックリした。
だって、ここには私以外居ないと思っていたから。

慌てて周りを見回す。

だけど、私には気配を読むなんて真似は出来なし、
出来たってそこから見えない相手をどうこうなんて事も。


只、ぎゅっとカラダを緊張させるだけ。

そんな私を見て、からからと笑い声が聞こえてきた。


「ああ、御免なさいね。驚かせてしまいましたか」

私の後ろから女性の声がする。

恐々、その方向に振り向く。


見れば、一人の巫女さんが。
ニコニコと笑っている。

それよりも、気を引いたのが、この人の年齢。
十代の様にも見えるがそれにしては落ち着きすぎているし。
かと言って三十代と言ったら若すぎる。
それでは中を取って二十かと言えば又違う。

一体いくつの人なんだろうか。
実に不思議な人。


「深追いは止めとけ」
そんな言葉が一瞬胸をよぎる。
そうね
その言葉に従ってそれ以上の詮索は止めておく。

「御免なさいね、余りに熱心だったもので。つい」
巫女さんが笑いながら近寄ってくる。

私としては巫女さんの言葉よりも
ここに私以外の人がいた事にビックリした。

だってこんな、言っては失礼だけど
鄙びた神社に来る人なんていないと思っていた。


「ここ最近、毎日ここに来られていますよね。
その度にそれはそれは熱心にお参りしていますので。
きっと大切なお願いなんでしょうね」

ええ、まあ。
と、曖昧に答える。


「別にそんなに怖がらなくても宜しいですよ。
大丈夫ですって。
ちゃんと足のある人間ですから」
口元を手で隠しながらちょいちょいと反対の手で私を招く。

呼ばれてしまったら行かないと失礼よね。

トテトテと、巫女さんの所に歩いていく。

「ここが恋愛成就の神社とご存知で来られているんですよね?」
小声で、耳元に囁く。

???????

?そうなんですか?

私の驚いた顔を見て、又クスクスと笑ってる。
あ、カマかけられた。

「でしょうね。それをご存知なら
もう少し違ったリアクションしますもの」
そして、パンパンと私の背中を叩く。

「恋する乙女は何にでも縋りますもの。
鰯の頭も信心から。
見えない神様でも何でも」

うーん、不思議な人だわ。
普通神社にいる人ならこんな発言はしないんじゃないかしら。

そんな、自分の神様を冒涜するような。

確かに、こう恋をすると何だか心細くなって
居ても立ってもいられなくなって。

何にでもいいから縋りたい、心の拠り所にしたい。
だから、今ならメール、昔なら恋文。
何か形として残しておく。

それでもどこか不安なら、こうして神様や占い等等。

とにかく、一時的な情緒不安定を沈静させようと
躍起になってあれこれやってみる。


「ですが、残念でしたね。
時期が悪いでした。
今は、ええ。
もう少し前が後ならば宜しかったでしょうが」


?????????

一体何の事だろう。

私は意味が判らず、首を傾げる。
けど、いくら捻った所で答えが出る訳でもないし。

「あの、一体どう言う意味ですか?」
おずおずと、巫女さんに聞いてみる。

巫女さんは、一瞬、私の顔を見てそれから
そうでしょうね。
と、一人納得していた。


「ああ、ミッション系の学校に行っていらしてれば
お分かりにはなりませんでしょうね。
失礼致しました」


ああ、私、学校の制服着たままだったんだっけ。

だからこの人はそう言ったんだ。


「この日本では、今の月、昔の呼び方ですが。
十月を「神無月」と呼ぶんですよ」

ハア、それは知ってますが、それが何で?

「読んで字の如く。
この月は「神様の無い月」
だから「神無月」と言うんです」


ああ、そうなんだ。
だから今の月に神社に言っても無駄なんだ。
いくらお参りしたって、肝心の神様がいないんだもの。


少し、がっかりした。
口では鰯の頭とか言ってても
心のどこかで信じていたし。

その神様がいない。

今までの行動が全て無駄に思えた。
酷い疲労を感じる。


「ですが、いくらいないとは言っても、神様のお使いはいますから。
その間の願いが無駄と言う訳ではないですよ」

余りに私が落胆していたからか。

巫女さんがそんな事を言ってる。

「それに完全にいなくなる訳ではないんです。
皆、この月は出雲の国に行っているんですよ。
出雲の国の出雲大社。
そこの大国主命の所に呼ばれているんです。
日本中の神様がこの時期に一斉に。
何故ならば、大国主命は日本の神様で一番の神様ですから。
ですから、出雲の方では「神有月」と言うんですよ」

うう。
判りづらい。

「あの」
私が口を挟む。


「一番は伊勢の天照大神ではないんですか」

巫女さんははにかみながら。
言葉を選んでいる。


「ええと。記紀神話を知らない方には難しいんですが。
天照大神は「天津神(あまつかみ)」の一番。
大国主命は「国津神(くにつかみ)」の一番なんです。
で、ですね。
天津神と国津神の違いは
天津神は天から来た神。
国津神は元からこの国にいた神。
と言うのが簡単な分け方ですかね」


御免なさい。
折角のご説明なんですが。

半分も判りませんでした。

とりあえず。

この月には神様がいないと言う事のみ、
判りました。


まあ、それでも、いいか。

私がいるって信じていれば。
そこに神様はいる。

私はそう信じてる。

それに神様は、心に宿るって昔聞いたことがある。
だから

がっかりはしたけど。
どこが、さっぱりした気分。

何となく。
目から鱗、と言うか。

「そうです。
神様は、皆様の心にいつもいるんです。
何て言ったら怪しい宗教の勧誘みたいに聞こえますが。
そう言う心を持っていて下さいね」

にこりと微笑む。
私もにこりと。


「そうですね。
私もそう思います」

「では、ごきげんよう」

巫女さんが去っていく。

私も、行こうかな。

いつか、この願いは叶うのかな。


胸の奥に仕舞っている密かな、願い。


けして、叶わない。


叶える事が出来ない、願い。

あの時の先輩に対する
密かな、秘めやかな願い。

私の、多分、初恋の人。

いつか


届け

この恋。


さあ

風が流れる。

その風に乗って木の葉が舞い上がる。
一緒に私の想いも飛ばそう。


この風が、先輩まで届きますように。

今日、最後の願い。
私の永遠の想い。


届け。


この想い。

FIN

後書き

はい。
お祭り第三弾。
となります。

うーん。
判りずらいですね。
思い切り趣味のみですから。

しかも、誰が主役だかすら判らない。

皆さーん、判りますかー?
これは「ふじのんSS」ですよー。
決して神様SSではないですよー。

てか
神様SSって何やねん。

ソーユー訳で。

投稿規程の三作目です。

次回は「ハロウィンSS」になります(ホントか)。


それでは。


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