『コウネリウス君とアラヤ君』






 その災難は、唐突にやってきた――――


 一日目

「コウネリウス……聞きたいことがある」
「なんだ?」
「私は、暗いのだろうか?」
「は?」
 突然私――コウネリウス・アルバ。時期学院長である――の部屋へとやってきた荒耶はワケの分からない質問をした。 
「暗い、とはつまり明度が足りていないと言う事か?」
「否。性格的な問題を言っている」
 なるほど。性格の問題か。
 確かに荒耶が笑っているところなど見たことが無い。暗い性格といっても間違い無いだろう。
「暗いな。確かに」
「そうか……」
「それがどうした? なぜいきなりそんな質問をする?」
「先ほど、アオザキにそのような概要の忠告を受けてな」
「アオザキか……。まぁ一理あるな。ならとりあえず、街にでも出てみたらどうだ? 協会の自分の研究室にこもってるから暗い性格になるんだ」
「なるほど」
 感謝する。そう言い残して荒耶は出ていった。



 二日目

「コウネリウス……」
「また来たのか。今度は何だ?」
「私はそんなに恐ろしいのだろうか?」
「は?」
「実はな、お前に言われたとおり街に出てみたのだ」
「ふんふん」
「それで公園に行って鳩に餌をやろうと思ったのだ」
「…………」
 その選択がすでに暗い。
「だが……肝心の鳩がまったく近寄ってこようとしないのだ!」
「あの普通に蹴れるほど近くまでよってくる鳩がか!?」
「ごく自然に餌をまいたというのに、やたらと警戒された……」
 落ちこんでいるのだろうか、一段と暗い声だった。
 いや、まぁあの鳩に警戒されたらへこむのも頷けるが……。
「こ、公園は止めて街にでも行って来い。ショッピングでも楽しんで来たらどうだ?」
「なるほど、そうだな。確かに鳥類は私の専門ではない」
 そんな問題なのか?
 首を傾げる私を無視して、感謝する、と言い残して荒耶は出ていった。



 三日目

「コウネリウス……」
「今度は何なんだ?」
「私はそんなに危険人物に見えるのだろうか?」
 見えるかと聞かれれば……見える。
 爆弾とか持ってそうな危なさではないが、街を歩いていたらいきなり「アナタ、イマ、シアワセデスカ?」と片言でワケの分からない怪しい質問をしてきそうな危なさはある。
「いったい何があったんだ?」
「実はお前に言われたとおりショッピングと洒落込もうと街をぶらついていたのだが……」
「ふんふん」
「何故か警官に職務質問されてしまった」
「――――は?」
 予想外の言葉に首を傾げる私に、荒耶はその状況を簡略に説明した。


「あ〜、君。名前は?」
「魔術師――――荒耶宗蓮」
「ま、魔術師? 旅行者かね?」
「ウム、真理の探求者である」
「……それで、この国には何が目的で?」
「何が目的かだと? 決まっている、死の蒐集だ」
「――――……それで? 目的地はどこなのかね?」
「フッ、知れた事。この矛盾した螺旋(セカイ)の――――」
「チミ、逮捕」


「何故か私を捕縛し様としてきたのだが、とりあえず返り討ちにしておいた」
「荒耶……お前しばらく協会内で謹慎だ」
 何故だと本気で首をかしげる荒耶を、私はたたき出した。
 これから行う指名手配の失効手続きの為の書類作りは、おそらく朝まで続くことになるだろう。



 四日目

「コウネリウス……」
「……何だ」
「私は地味なのだろうか?」
「何?」
「私の魔術は地味なのだろうか、と聞いている」
 地味なのかと聞かれれば地味だと答える。
 なにせ結界で動きを止めて、後は肉弾戦だからなぁ。
「どうしてそんな事を聞く?」
「アオザキにそうとしか思えない忠告を受けたのだ……」
「またアオザキか……」
 あのクソアマァ……。からかって遊んでいるに違いない。
「……とりあえず、見栄えを良くするのなら呪文の詠唱を長くするとかが簡単だろうな」
「あるいは服装を変えるとか、か?」
「それもアオザキの助言か? まぁそんな感じだな」
「そうか。…………やはり魔女ッ子か」
「えっ!?」
 私が聞き返す間もなく、感謝すると言い残して荒耶は出ていった。
 ちなみにその数時間後、学院内にピンク色のフリフリドレスを着た凶悪なバケモノが出没するという事件が起き、その姿を見た数名の院生がショックで病院に運ばれていった。
 その手続きは、やっぱり朝までかかった。



 五日目

「コウネリウス」
「…………」
「インターネットというのもなかなか楽しいものだな」
 またなにか聞かれるのではないかと思っていたのだが、荒耶はそんなことを言ってきた。
「インターネット?」
「図書館にある奴だ」
 あぁ、と頷く。
 古くなり始めた書庫の拡張工事の際、電子書庫の設置を提案したのだった。
 さらにその端末からはインターネットも繋げるようにした。
「そうか」
「うむ、世の中には私の想像を超える蒐集家達が居るものだな……」
 蒐集家というかオタクと言うのだ。
「それで? チャットでもしたか?」
「いや、それはしなかったが掲示板とやらに書きこみはしたぞ」
「ほぅ、ハンドルネームは何にしたんだ?」
「うむ。それがそのHPではほとんどの人間が同じ偽名を使っているのだ」
「同じハンドル?」
「あぁ。なんだったか……。そう、確か『名無しさんだよもん』だったか」
「2チャンネル!? しかも葉鍵板かっ!?」
 「禿同」などとワケの分からない事を言いながら、荒耶は出ていった。
 その後、端末にウィルスが進入していることが発覚し、その駆除、復旧作業は朝まで続いた。



 六日目

 やはり三連荘での徹夜は辛かったのだろう。
 書庫から帰る途中に倒れた私は、病院に運ばれた。



 七日目

「コウネリウス」
「…………」
「すまなかった。お前に迷惑をかけてしまっていたようで」
 本当は罵詈雑言の言葉を大量に用意していたのだが、素直に謝罪する荒耶なんて珍しいものが見れたから許すことにした。
 我ながら甘いとも思うが、悪意無き者を怒ってもしかたの無いことだ。
「構わないさ」
「そうか」
「ただ、あまりアオザキの言葉に振りまわされないようにしろよ」
「うむ。重々留意する」
 これでやっと平和な生活が戻ってくるだろう。
「ところでコウネリウス。聞きたいことがあるのだが……」
「またかっ! 今度は誰に言われたんだ!?」
「ウム、玄霧だ」
「やつかっ!?」
「聞いてくれ。私は――――」
「荒耶!」
 また良くないことが起こる。そう直感した私は、荒耶を遮った。
「なんだ?」
「荒耶。お前は暗くも無いし、怖くも無いし、危なくも無いし、地味でも無い。まして玄霧が言ったよう事も無い」
「そうか?」
「そうだ。だから安心して自分の道を突き進め」
「ふむ……そうか。そうだな」
 感謝する。そう言って、何か満足したのか荒耶は清清しい(といってもちょっとだけだが)表情で病室を出ていった。
 私はそれを見送ってから、小さくため息をついた。
「そうとも。おまえはそんなんじゃないさ」
 暗くも無いし、怖くも無いし、危なくも無いし、地味でも無い。
 お前はただ――――馬鹿なだけだ。






 あとがき

 なんじゃこりゃ!?
 と、セルフツッコミしておきました♪
 今回はクールなアルバとオバカな荒耶の組み合わせです。
 こういうのも良い感じじゃありません?

 実は、ちょっとだけしにをさんの天抜きをイメージしています。
 さすがに、四コマで表現はできないでしょうけど(苦笑
 これは1、2ページのショートマンガって言う感じです。

 ちなみに、このSSでのアルバのイメージは「魔術師オーフェンはぐれ旅」のフォルテです。
 らっきょ本編では端役でしたが、彼もエリートなんですから……これくらいのクールさはあるかと。
 アルバロベ! ←かすがさんのが感染(うつ)った(笑