喜劇 愛のかぼちゃ劇場

10月31日。今日は久々の式とのデートの日である。
待ち合わせ場所である駅前に着いて、広場の大時計を確認すると、時間まではまだ大分あった。
まあいいか、と思ってベンチに腰を下ろす。デート前、恋人を待っている時間は幸せな時間だ。
この幸せを味わえないと思うだけで遅刻などしなくなるほどに。
幸せな気分でベンチに座っていると、僕を呼ぶ声がした。
「幹也」
振り返ると意外な人物がいた。
「あれ、大輔さん」
「奇遇だな」
叔父に当る秋巳大輔刑事である。年齢的にも精神的にもどちらかといえば兄と言った方が近いと思う。
普段なら気軽にやり取りする所なのだが、たった今までごく個人的な幸せに浸っていただけに何となく感情を持て余す。
大輔兄さんは僕のその表情からその辺の事情を正確に読み取ったらしく、ニヤリと笑った。
「ははあ、今日は両儀さんとデートだな。待ち合わせに早く来すぎたものの、待ってる時間もデートの内、と幸せに浸っていたんだろう」
正解。
まったく、ここまで機微に長けているのに何故本命に相手にされないんだか。
女心の機微には疎いのか、自分が絡むと駄目なのか、はたまた相手が悪すぎるだけなのか。僕には判別不能だ。
「しかしそうすると…」
大輔兄さんはちょっと考え込んでから僕に尋ねた。
「幹也、事務所は今忙しいのか」
「忙しかったらここに居られないよ。僕でも忙しくないんだから、所長は暇を持て余してる」
事務所の経理を預かる者としては、不安な限りであるのだが。
「何、すると橙子さんが独りでヒマを持て余しているんだな。その上所員はデートだ何だと散々のろけた挙句帰ってしまった…」
何やら考え込む大輔兄さん。…別に僕は惚気たりしていない。ただ橙子さんが勝手に気付いただけだ。
しばらくして答えが出たのか、大輔兄さんは言った。
「ああ幹也、俺は急用を思いついたから。それじゃ」
そしてシュタッと手を挙げると走り去っていった。
どうでもいいがこんな時、急用は思い出すものではないだろうか。…正直といえば言えるが。
「まあ、いいか」
独り言と共にベンチに腰掛けなおす。
上手くいかなくても僕の責任では無いし、上手くいけばまあめでたい。
「上手く行った方が面白いかな」
とりあえずは邪魔が無くなったことだし、再び幸せに浸って式を待つとしよう。

扉を開けると、そこは殺人現場だった。
えーと。
ちょっと落ち着いて考えよう。
俺は幹也から情報を得た後、すぐさま手近なケーキ屋へ飛び込んだ。
近くに来たからと幹也をダシに顔を出し、あわよくば二人でハロウィンパーティーを、と思ったのは事実だ。
年がいもなくちょっぴりドキドキしながら伽藍の洞へ向かい、扉を開けるとそこは殺人現場だった。
…とりあえず落ち着いても意味が無いことは理解できた。OK、話を先に進めよう。
まず被疑者は蒼崎橙子。何故だかつば広のとんがり帽子を被り、黒地のマントを胸元のペンタグラムで留め、
その下には緑のローブを着て、まるっきり魔女スタイルである。よく似合っているとは思うがそれはこの際置く。
とにかく今現在は乱れた呼吸を整えるように大きく肩で息をしながら、倒れ臥した被害者を呆然と見つめているように見える。
右手に箒を握り締めており、それが凶器だろう。
蒼崎橙子の犯行を否定する余地は無い。なんてこった。
一瞬、火曜サスペンス劇場ならどんなセリフを吐く場面かな、とか現実逃避しかかった。あわてて想像うを振り払う。
まだだ。
とにかく現状を把握しようと、次に被害者に目を移す。
一見して生死は疑うまでも無いように見える。被害者は中肉中背、だぼだぼの服を着ている。
後頭部が砕け散っているのが致命傷だろう。身体的特徴は頭部がかぼちゃである事と…
「…かぼちゃ?」
ふと我に返る。
ハロウィンだし、そんな形のヘルメットを売っていてもおかしくは無い。しかしコイツはどう見てもメットじゃ…
ふと漏らした声に蒼崎橙子がこちらを向いた。今日は眼鏡をしていない。
「秋巳刑事?」
訝しげな声はいつもよりかなり低く、ハスキーだ。目つきも眼鏡をしていないせいか若干悪い。
普段の優しげな声もいいがこのハスキーな声もいい、等と場に合わない事を考えている俺に橙子さんが何か言おうとした。
しかし、それよりも速く俺の身体が動いていた。
左足で一歩踏み出して橙子さんに並ぶ。
そのまま左足を軸足にして右足を鋭く蹴り出した。
その蹴りが死んだ振りから一転襲い掛かろうとしていたかぼちゃ頭を大きく弾き飛ばした。
そのときに見えた奴の顔に当る部分は、まるきりランタンだった。

「ケケケケ…」
かぼちゃ頭は奇妙に愉快そうな声をあげると、空中で、


自爆した。


「きゃっ」
とっさに橙子さんを庇いつつ床に倒れこむ。
覆いかぶさるようにした俺の背中に何かの破片がビシビシと当って痛かったが声は押し殺した。

「橙子さん、怪我はありませんか」
「ああ、大丈夫だ。それよりも君は大丈夫か、秋巳刑事」
「ええ、どうやら問題無いですね」
軽く腰や肩を動かして確認する。背中が少々痛いが骨折などは無さそうだった。
できればこのまま橙子さんの柔らかい体を抱きしめていたかったが、そういう訳にもいかないだろう。先に立ち上がって手を貸す。
「ああ、ありがとう。どうやらお陰で無傷で済んだようだ」
改めて礼を言われると照れる。しかしなにも分からない事に変わりは無いからには事情を聞くしかないのだが。
とりあえず、殺人事件ではなかった様ではあるが、自爆テロなんて中東じゃあるまいし。
「さて…」
何から聞いて良いやらと辺りを見回すとおかしなことに気がついた。
先ほどのかぼちゃ頭はあの爆発で跡形も無くなっている。ならば俺はもっとダメージを受けているはずだ。
少なくとも周囲には血や肉片が飛び散っているはずだった。
しかし実際に飛び散り、俺の背中を直撃したのは、
「…かぼちゃ?」
かぼちゃの破片だった。…良く分からん。
ま、その辺も含めて聞くとしよう。悩んでも無意味な気がする。
「さて、そろそろ事情を聞いてもいいですかね」
「何でもないといっても無駄だろうな」
そう言うと橙子さんはしばらく考え込んだ。
そしてやや緊張を含んだ表情でこちらを向く。
「秋巳刑事、事情を説明するには一つ信じてもらわなければならない事があるんだ。
…信じられないなら何も無かったことにして欲しい。実際、刑事事件になる様な事はここでは起きていないから」

「とりあえずは話してくれないと判断できませんよ」
それももっともだと橙子さんはうなづいた。
それでも少しの間ためらった後、橙子さんはこう言った。
「秋巳刑事。私は実は魔術師なんだ、って言ったらどうする?」
俺は答えた。
「ふうん、そうなのか、って答えますが?」
至極平静に返したと自分でも思う。
「…冗談じゃないんだ。私は君とは住む世界の異なる人種、魔術師という存在なんだ」
「魔術師だろうと宇宙人だろうと蒼崎橙子は蒼崎橙子だろう。それが変わるわけじゃない」
俺の本心だった。
それに。
俺は薄々感じていた。幹也や鮮花は橙子さん絡みの厄介事に何度も巻き込まれている。そう直感していた。
そうした時、それに続く言葉はいつも、

『どうして俺じゃないんだろう』
だった。
恐らくは、いや確実に幹也や鮮花は自身もやっかい ごとに巻き込まれたと認識している。
しかし人生においては『愉快』と『厄介』は表裏一体という真理がある・・・と俺は思っている。
いや、もっと積極的に『愉快』と『厄介』は異音同義語であるとすら考えている。それが惚れた女の厄介事なら大歓迎だ。
そんな訳で、俺の結論はこうなった。
「橙子さん、どんな事か知りませんが、あなたの厄介事なら俺も巻き込まれることに決めたんです。
拒否しても無駄ですから、おとなしく話してください」
橙子さんは虚を衝かれたような顔をした。
そして一瞬後には腹を抱えて笑い出した。
「ククク、そうか、秋巳刑事は黒桐の親戚だったな。全然違う過程wp通って結論は同じになるのか。ハハハハ、良く似ている」
笑いながら似ている似ていると繰り返す。
俺は憮然として、
「言っておきますが、幹也が俺に似たんですよ」
とだけ言った。

ひとしきり笑った後、蒼崎橙子はいや悪いと言って話し始めた。
「実はね、かぼちゃが人類に反旗を翻したんだ」
「…は?」
一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと思った。魔術師云々はまだしも、かぼちゃ?
橙子さんはこちらの様子をうかがうと、やはり説明が必要かと呟いた。
「全ての物に精霊が宿るという考え方がある。それはまあ全世界どこでも普遍的にある考え方だな。
 そしてだからこそ、世界中大概の場所で自らを生かす収穫物に対して感謝を捧げる。
 まあ、一神教の場合は万物の霊でなく神に祈るのだが、まあ同じことだ。
 子供の頃に米には神様が宿っているなどと言われたことはないか?
 あまり詳しく話す気はないが、この考え方はそれ自体はいい加減だがその結果はおおむね正しいと言える。
 …だが近年、そのバランスが崩れつつある。

 普通、その結果は各作物の不作などの形を取って現れるのだが、
 極まれによりダイレクトな形でそのものの意思が現れる場合がある。
 例えば1978年はトマトのバランスが崩れかけた年だった。
 この時、トマトを司る意思はある男に警告のイメージを送りつけた事が協会によって確認されている。

 ちなみにその男はそのイメージを霊感として受け止め、自己流の解釈と共に映画化し、世に問うた。
 その反響は全世界ですさまじく、その効果によって世界の危機は乗り越えられたそうだ。
 …その作品?私は見たことは無いがそれなりの知名度らしいぞ?タイトルはなんて名前だったかな・・・
 ああそうだ『アタックオブザキラートマト』だ。知ってるのか?」
 名作なのかね?などと訊ねる橙子さんを余所に俺は遠い世界にして自らの内面である世界をさ迷っていた。
 知られざる世界の真実が一つ明らかになった。あのB級映画が世界の危機を救ったのだ!
 …イヤな真実だな、おい。
 ゲンナリしつつ、もしや『はき溜めの悪魔』や『バトルヒーター』も人知れず世界を救っているのでは、
 という恐ろしい想像に身を震わせる俺を尻目に橙子さんの話は続いた。

「そして今回、かぼちゃのバランスが危機に瀕している事を察知した私は、
 事前にそれを回避する為かぼちゃを司る意思との接触を試みた。
 折りよく今日はハローウィンであり魔力の繋がりが良かったため、
 意思との交信に飽き足らずより直接的な接触を行うことが可能となっていた。
 そこで意思に仮初めの肉体を与え、この世に具現化せしめるところまでは順調に進んだのだが…」
 そこで橙子さんは何やら微妙に目線を逸らしつつこうのたまった。

「いやあ、あんまり物分りが悪かったものだからつい…」
「…つまり解決しようとして止めを刺してしまったと」
「うん、実はそう」
ちょっと頭が痛いかもしれない。まあ愉快な話なのは確かだ。やっかいなのも同じく確かだが。
「で、放って置いたらどうなるんです?」
そう、それが一番の問題だ。世界的にかぼちゃが不作になったりしたら…
「一度具現化したから、多分連鎖的に具現化が促進されると思う」
「つまり?」
「世界中にさっきのかぼちゃ頭があふれる」
…って、さらっと言うことか!
「死ぬほど大事じゃないですか!」
そう詰め寄ると橙子さんはまあまあと俺の肩を叩いた。
「今なら数は知れてるから、今日の内ならまだ手は有る。ちょっと待ってくれ」
そう言って事務所の黒電話を手に取る。
ほどなくして受話器を置く。
「では片付けてくるよ。何心配はいらない」
「俺も行きますよ。片付くことは心配してませんが橙子さんは心配です」
橙子さんは迷うようにちょっとの間天井を見上げ、そして何かを決めたらしかった。
頬がほんの少し赤くなっている。
「秋巳刑事。前言を翻すなら今のうちだぞ。私は今から君を巻き込む腹積もりだからな」
この時の橙子さんの表情はなんと表現すれば良かったのか。
未だに判断がつかない。
だがどうあれ俺の返事は決まっていた。
「言ったでしょう。決めたって」
わざと冗談めかして答えた。橙子さんは見たこともない会心の笑みを浮かべてよしっと言った。
いや、そういえば見たことのない表情ではない。子供のころの悪友がよくこんな顔で笑いかけてきた。
 取っておきのいたずらに誘うときの顔。
いい顔だと思った。俺の考える二人の理想の関係とは若干異なるが、こんな顔を見れるのならこれはこれで悪くない。
 心からそう思う。

「それじゃまずは人手を集めよう。黒桐達を誘拐にいこうか」
「駅前で見かけましたが、もうかなり経ちましたよ?」
「大丈夫だ。こんなこともあろうかと足止めしてある」
「と言うと?」
「式とのデートを鮮花にリークした」
「ああ」
あの子は何故か幹也に執着しているからな。
本当に考えがあってリークしたのかはあえて聞かない。
「人数が増えるから箒じゃだめだな。車でも乗り切れんか。よし、あの手で行こう」
妙に楽しそうにしている。かくいう俺もわくわくしているが。
橙子さんはかぼちゃをとりだすとマジックでなにか書き込んだ。
それを窓の外に放り投げる。
「秋巳刑事、外を見てみたまえ」
窓から外を覗くとビルの前には、
「おお、自動車」
かぼちゃは大きなオープンカーになっていた。これなら六人は乗れるだろう。
ただしなんとなくでかいゴーカートの様でかっこいいとは言いがたい。更に山吹色に緑がかった筋入りのかぼちゃ柄。
車検は絶対通るまい。

「さ、行こう秋巳刑事。そこの引き出しの中身を持ってきてくれ」
引き出しを開けると中には明らかに放置車からかっぱらって来たと思えるナンバープレートが入っていた。
…道交法はこの際無視する。しかし俺は犯罪行為がばれるとまずい立場だ。
「これでも現職なんでヘルメットかなんか無いですか」
「これでよければあるぞ」
渡されたものはどう見てもハロウインのかぼちゃランタンだった。
まあ、顔が隠れるならランタンメットでも良かろう。
「さて飛ばすか。ボニー&クライドと行きたいところだが」
「現状じゃ、魔女のお姉さん&かぼちゃ王子ってとこです」
「ま、ハロウインならそんなところか。ではいくぞ」
こうしてかぼちゃカーは発進した。

そのとき、僕はピンチだった。
目の前には式と鮮花がいる。
式とのデート現場を鮮花に何故か踏み込まれた。
式と鮮花の良識と僕の胃壁をすり減らす刺々しい会話が続くうち、何故だか僕が式に夕食を作ったことに話が及んだ。
「そんな、兄さんがフリフリエプロン(黒)で料理したなんて!…でも兄さんて料理出来ましたっけ?」
「ああ最近ね、うどんのツユにこってたんだ。結局ダシと醤油とみりんだから和食の基本的な味付けでね、
 いろいろと応用が利くんだよ。野菜スープにも出来るし、おでんも鍋もコレでいけるよ。それにカツ丼も親子丼も…」
そこでふと思い出したことがあった。
「そういえば式、君いまだに両義の家に顔を出してないだろう。近況は秋隆さんに伝えてるけど、やっぱり直接顔を会わせないと。
 お母さん心配してたよ」
「ほっとけよ」
そう言った後で、式は何故かこちらを睨んだ。
「幹也、お前何からうちの母親を連想した」
「え、親子丼だけど?」
…なぜか二人の視線が厳しくなったような気がする。
「兄さん、式のお母様ってどんな方なんです?」
「式によく似てるけど、雰囲気はもっと優しそうな感じ。人の親とは思えないくらい若く見えるよ。美人だし」
…何故だか二人の視線が氷点下になったように感じる。僕がいったいなにをした?
ともかくピンチである。僕は選択肢を模索した。

 惶霏膕修垢襦

◆悒瓮幹也になる』

『マヌケ時空に引きずり込め』

何故に特撮!?それに全部悪役サイドの選択肢なのはどういうことだ。
僕の脳みそはなにか鬱屈した物でも抱えているんだろうか。
そう思いつつも僕が脳内選択肢でとりあえずを選ぼうとしたとき、
「おーい」
振り返ると、こちらに手を振る学人を発見した。
「何してんだ、こんなところで」
「学人、いいところに」
どうやら正解はぁ愿仂譟敵か味方かストロンガー学人』だったらしい。
学人は手を振りながらこちらへ


ブロロロロロロォーッ ドボンッ


たどり着く前にかぼちゃ柄のダサい車と接触しかけ、避けた拍子に顔からどぶ川に落ちて行った。
僕の脳内では『さらば友よ!ストロンガー学人夕日に死す』と謎の番組タイトルが流れていた。
学人のことはさておき(ぉ その異様なオープンカーは見れば見るほど異様だった。
しかもドライバーは魔女姿の女で助手席にはパンプキンヘッドが座っている。
ハロウインに便乗したどこかの宣伝カーだろうか。それともこれから銀行襲撃にでもいくのか?
車は速度を落とさず、僕の脇を通り過ぎようと、


グイ


え?と思う間も無く、僕は助手席のパンプキンメットに抱えられていた。
ドサリと後部座席に投げ出される。
「幹也!」
「兄さん!」
声に振り向くと式と鮮花が車の後部トランクルーム辺りにへばりついていた。
えーと、もしかして誘拐?
パンプキンメットが運転席に声を掛ける。
「橙子さん、さっきの接触して無いでしょうね」
「もちろんだ」
…改めて見ると運転手は橙子さんだった。
「何やってんすか、所長」
「やあ、黒桐。すまんが運転は久しぶりなんだ。ちょっと話しかけないでくれ」
なんだか必死だ。だったら安全運転に徹して欲しいと思う。
それと、
「…何やってんすか秋巳刑事」
「ん?人員の補強。それよりもあの二人を引っ張りあげないか?」
見ると鮮花が50km/hで走る車からずり落ちそうになって顔色を蒼白にしていた。
二人に手を貸しながら何となく思った。
やっぱり僕はさっきを選んだんだろうか。
「引きずり込まれたのはこっちなんだけど…」
そんなセリフが頭の中を駆け巡っていた。

とりあえず三人が説明を求めたので、橙子さんと運転を変わり、俺がドライバーとなった。
現在車は「ふざけるな」とか「そんな理由で」とか「なんでこんなこと」とか騒音を撒き散らしつつ目的地へと向かっている。
三人がブツブツ言いつつも程よく言い包められた頃、車は目的地に着いた。
そこに用意されていたのは、
ただ広い土地と、
「かぼちゃの山?」
そう、うず高く積まれたかぼちゃの山だった。
それこそ小型のピラミッドぐらいはある。どこから何時の間に集めたやら。
「ここで何をするんですか」
幹也の問いに橙子さんは何故か得意そうに
「人外の者が暴れだそうとしている時は、鎮めるために祭りを行うのが古来よりのセオリーだ。ここでかぼちゃ祭りを執り行う。
幸いここは地脈的に…」
得々と何か説明しているが、俺には良く分からなかった。多分聞いてる方はだれもわかっていない。
「…という訳だから、ここに奴らを集める。そうしたら魂鎮めの祭りをして奴らをなだめて終了だ。
何か質問は・・・有りそうだが却下。では行動に移る」
そう言って先頭切って山に向かった。
俺も旧式のでかいラジカセを手に続く。
なんとかかぼちゃの山を登りきることが出来た4人は息を吐いた。
橙子さんはなかなか登れず、途中でハイヒールを投げ捨てたりしていたのでもう少しかかりそうだ。
「考えるだに馬鹿馬鹿しい情況ね」
「全くだ」
「それよりも足元にきをつけてよ」
「ふふふ、今にそんなこと言ってられなくなるぞ」
ようやくあがってきた橙子さんが言った。
「では秋巳刑事、ミュージックスタート」
「ぽちっとな」
ラジカセから軽快で、それでいてどこか珍妙な音楽が流れ出た。
「コレに何の意味があるんだ」
両儀さんはまだ憮然としている。まあデートの最中に無理やり連れてこられて機嫌が良ければそのカップルも終わりだ。
「知らないか?出てこない者を呼び出すには踊りと音楽と笑い声で興味を引くというのがセオリーなんだ。
この音楽はかぼちゃのバイオリズムに合ってるから興味は引くはずだ。
本当は踊りも入れたいがここは足場が悪いから、…ああ、式ならそれでもいけるか。踊るか?」
「イヤだ」
強く拒絶した。
「踊るついでに脱いでくれると完璧だったのだがな。まあ、好奇心は強そうだったから多分大丈夫だとは思うが」
橙子さんは気長に待つか、と腰を据えた。
5分もしたころ。
「あれか、かぼちゃの精というのは」
全員が両儀さんの指した方向を見る。
そこには伽藍の洞で見たのと同じ姿のかぼちゃ頭が踊るような足取りでやってくるのが見えた。
「成功だ」
ニヤリと笑う橙子さん。
「あ、こっちからも来た」
鮮花が別の方向を指す。
かぼちゃ頭達は次々とやって来ては山の周りをぐるぐると廻りながら盆踊りのような物を踊っている。
そして30分もたったころには、
「おお、これは壮観」
何百、いや、恐らく千を超えるかぼちゃ頭達が山の周りを音楽に合わせてぐるぐると踊る光景に思わず声が漏れた。
「何か楽しそうですね」
俺もそう思う。祭りというのは人を引き付ける力がある。人外の物にしてもだ。
「そうだな、できれば俺も踊りたいくらいだが…」
ちらと橙子さんの方を見る。まあ、今日は無理だろう。そのうち誘うか。
じっとかぼちゃ頭達が輪になって踊るのを見つめていた橙子さんは
「思ったより数が多いが…そろそろ頃合だな。祭りを始めよう」
と呟いた。
「え、今までのはお祭りでは無いのですか」
鮮花の疑問はもっともだ。俺もそう思っていた。
「ふっふっふ、全世界のかぼちゃ危機をこれだけの人数で救おうというのだ、こんな穏やかにすむはずがあるまい」
非常に不吉な事をやけに楽しげに断言して、音楽をとめた。
すっくと山の頂上に立った橙子さんにかぼちゃ頭達の視線が集中する。
十分に注目を集めた橙子さんは
「聞け、集いし者達よ」
と厳かに言った。
「…なんか邪教の司祭って感じだ」
なんかぼそぼそと聞こえるが馬耳東風らしい。
「これより虐げられし諸君らの為に魂鎮めの祭りを執り行う」
その瞬間、山下からは一斉に雄たけびが上がった。
「かぼちゃ祭り開始ぃ!」
「え?え?」

世界には様々な祭りが存在する。
皆様はスペインのブニョールで行われる『トマト祭り』をご存知だろうか?
広場に120トンのトマトがばら撒かれ、数万の参加者達が互いにトマトをぶつけ合うという狂気の祭典である。
参加者は例外なく真っ赤に染まるという。
何故トマトなのか?
そりゃ特産とかいろいろ理由はあるだろうが今もって行われている理由の一つは『トマトだから』であろう。
日本で雪合戦は行われるが、石合戦等は廃れた事と同様の理由であろうと思う。
つまり、しゃれにならん位痛けりゃ参加者は揃わない。まして痛くて重いとくれば最悪だ。
だがここに痛くて重い物の祭りの開始が宣言された。


こうして狂乱のかぼちゃ祭りが幕を開けた。

かぼちゃ頭達が一斉に山に走りより、かぼちゃを掴んで楽しそうに投げつけてくる。
無論山頂まで届くかぼちゃは少ないが、


ゴッ


「はぐぅ?」
幹也が後頭部に直撃を受けてうずくまる。そりゃ痛かろうと思う。なにせかぼちゃだ。音からして重い。
「幹也!くそっ」
「こら式、ナイフを出すな。お前が殺したら、世界のかぼちゃが死んでしまう」
「ええい、殺さなきゃいいんだろう」
両儀さんは幹也を狙って飛んでくるかぼちゃを次々に切り払い始めた。ちなみに自らにはナイフ無しでもまるっきり当らない。
・・・神技的ディフェンス!

「まさかこの目で拝めるとはな…」
渋く呟きつつ、さり気無く両儀さんの後ろに隠れる。
いつの間にか橙子さんもそこにいて、更に幹也を盾代わりに使っていた。なかなかナイスな根性だ。
そして鮮花は、
「よくも兄さんを!この腕の錆びを落とさせたこと後悔しなさい」
手近なかぼちゃをわしっと掴んで大きく振りかぶる。その手の中のかぼちゃは燃えていた。
「喰らえ。ファイヤァァァッ コメットォォォォォッ!!」
燃え上がるかぼちゃは正に彗星の様に炎の尾を引いて飛んで行き、


ガゴォォン!


見事にかぼちゃ頭の一人を直撃した。
「ケケケケ…」
直撃を受けたかぼちゃ頭はやけに嬉しそうに笑いながらきえていった。
「そうそう鮮花、その調子で頼むぞ」
橙子さんは軽く言って自らもかぼちゃを投げ始めた。
俺も鮮花に負けてはいられない。
「ふふふ、俺も一度は巨人の星を目指した男!」
重いコンダラを引いた、あの日々を思い出せ!
かぼちゃを掴んでガバァッと大きく振りかぶる。
俺には鮮花の様にかぼちゃを燃やすことはできない。だが今この時、俺の瞳が、魂が炎と燃えている!
「いくぜ、これが大リーグボール1号だぁぁっ!」


ゴスッ!


俺の手を離れたかぼちゃも狙い過たず、かぼちゃ頭を直撃した。
「おお、秋巳刑事もなかなかやるな。私も続くぞ」
どこからとも無く大根を取り出す橙子さん。
そして大根を両手で握ると、身体の力を両手に、そして大根に伝えるように身体を捻り、大きくスゥイングした。
「いけぇ!ジャコビニ流星打法ぉ!」
打った大根と打たれたかぼちゃが共に砕け散り、散弾となって襲い掛かった。
「ナイスバッチ」
「いや、試合はこれからだ」
二人で親指を立ててニヤリと笑う。
そして再びかぼちゃを掴んでは放り投げた。
この間も両儀さんは神技的ディフェンスとナイフの舞で次々とかぼちゃを撃退している。
一方。
「…えい」
独りノリ損ねた幹也は何か複雑な表情でかぼちゃを投げていた。

かぼちゃを投げた。
「迎撃スペシャルローリングサンダー」
「ジェノサイドスクリュー!」
「大リーグボール2号ぉ!」
「三段ドロップだ!」
「…えい」

かぼちゃを投げた。
「対空ジェットアッパー」
「44ソニック オン ファイアー!」
「大リーグボール3号ぉ!」
「スカイラブ投法ぉ!」
「……えい」

かぼちゃを投げた。
「ギャラクティカマグナム」
「アステロイドキャノン!」
「わはは、大リーグボール4号ぉ!」
「ファントム魔球ぅ!」
「………えい」

投げて投げて投げ続けた。
飛び来るかぼちゃを掻い潜り、こちらもかぼちゃを投げる。
かぼちゃが当ればかぼちゃ頭は笑い声を残して消えていく。
たまに避け損ねて非常に痛い思いをする。
だが、楽しかった。かぼちゃのぶつけ合いがたまらなく楽しかった。
ああこれは祭りなんだな、と強く思った。
当初1千を超えていたかぼちゃ頭達は、次第に数を減らして行き、それにつれてかぼちゃの山も小さくなって行った。
後数人のかぼちゃ頭を残すのみとなった今では、ただかぼちゃの散乱する広場でしかない。
「ケケケケ…」
また一人減ったようだ。

最後のかぼちゃ頭は直撃を受けて心底楽しそうに笑った。
「ケケケケ…」
そしてその声が風に消えるころには、その姿も消していた。
時刻はもう夜更け。月の光の下、大量のかぼちゃだけが転がっている。
「ふう」
肩で息をしながら座り込む。近くには橙子さんも座り込んでいる。
「ご苦労さん。どうにか祭りを最後までやり遂げることが出来た」
何時間かぼちゃを投げ続けたやら。熱い体に夜風が気持ちいい。時節柄すぐに寒くなるだろうが。
「やれやれ、これは明日がきつそうだな。お互い」
橙子さんが苦笑いする。確かに明日は確実な筋肉痛だろう。
「でも、楽しかったですよ」
「私もだ。こんなに楽しかったのはいつ以来かな。…本当、ハロウインは何が起こってもおかしくない日だ」
一方。
「なあ幹也、もういいから」
「……」
「兄さん、もう終わりましたから」
「…いやだ、もう少しなんだ!もう少しで」
幹也は『しじょーさいこーの球』を完成させようとしていた。

渋る幹也が両儀さんと鮮花に引きずられていっても、しばらく俺と橙子さんは座り込んでいた。
なんとなく祭りの後のなんとも言えない感じがする。
「秋巳刑事」
橙子さんがこちらを向いた。
「今日はありがとう」
面と向かって言われると照れくさい。
「俺はずっと楽しんでいただけですよ」
「いや、そうじゃないんだ。その、嬉しかったから。ああ言ってくれて。…一緒に来てくれて」
互いに目線は外しながら、である。
「あの時私は、本当は…」
ボソボソと聞き取りにくい声で何かを言いかけて、唐突に話を変えた。
「あ、ああ、そう言えば秋巳刑事は何か用があったのか?事務所に訪ねてくるのは珍しい事だが」
何を言いかけたのか聞きたくはあったがあきらめる。
まあ、今更ではあるが一応言っておこう。
「二人きりのハロウインパーティーでも、と思ったまでですよ」
「そうか、それは悪いことをしたな」
「なに、代わりに十分楽しみました」
そこでふと楽しそうに踊るかぼちゃ頭達を思い出した。そしてその時思ったことも。
「橙子さん、かぼちゃ達は楽しそうに踊ってましたよね」
「ああ」
右手を差し出す。
「俺達も踊りませんか。ハロウインはまだ少し残っていますよ」
「改めてパーティのお誘いという訳か。いいだろう、今日は最後まで遊び尽くすのも悪くない日だ」
橙子さんは俺の手を取った。
蒼い月の光の下で、俺と橙子さんはゆっくりと踊り始めた。
二人を見守るかぼちゃの群れはただ月光の元で沈黙していた。

どれほど経ったのか。
時の流れを止めることはできず、やがてハロウインも終わる時間が訪れる。
「あと一分か」
「そうですね」
「本来、私と君は住む世界の違う人間だ。こんなことはあるはずなかった」
「でもハロウインなんて何が起こってもおかしくない日でしょう」
「それを信じろと?」
「そうして下さい」
踊り続けながら、橙子さんはポツリと言った。
「私は魔術師なんだ。それ以上でも以下でもない」
「でも一人の蒼崎橙子でしょう?」
俺の胸元で微かにうなづく。
そして俺と視線を合わせた。
「私は雰囲気に流されているだけかもしれない。それでも…」
「それでもかまいませんよ」
「…じゃあ、今だけは…」
足を止めて静かに目を閉じた。
俺はそんな橙子さんを抱き寄せ、優しく口づけした。

12時を、ハロウィンの終わりを宣告する鐘の音が鳴り響いた。

どちらからともなく離れる。そして唇に残る感触の余韻が消えるまで、お互いに無言でいた。
「終わってしまったな」
「ええ、終わりました」
確認するように呟いて、そして橙子さんはクルリと後ろを向いた。
「楽しかった。それじゃ」
「送っていきますよ」
「いや、いい。言っただろう、私は魔術師なんだ」
そう言って橙子さんは何処からか箒を取り出した。
「私はか弱くないし、私を襲える者は数少ない。私に君の世界の常識は通用しない。言っただろう、すむ世界が違うと」
後ろを向いたまま橙子さんは箒に腰かけ、もう一度それじゃあと言って飛び立って行った。
俺は飛び立った方向を眺めやり、
「俺も言いましたよ。蒼崎橙子は蒼崎橙子でそれが変わる訳じゃないって」
と呟いた。

「橙子さんは帰りましたか」
幹也がやってきた。どうやら正気に戻ったらしい。
「ああ、帰った」
「じゃあ僕らはどうやって帰るんです」
そういえばかぼちゃの車はかぼちゃに戻ったんだっけ。
「わかった今タクシーを呼んでやる」
深夜料金も含めるとえらい出費だ。
「二人の世界に浸ってるからです」
両儀さんと鮮花が待つ場所に向かう途中、幹也はこちらに何かをなげて寄越した。
「なんだい、これ」
「何ってかぼちゃの車でやって来て、踊りに夢中になった挙句、12時の鐘が鳴ったら帰って行った、そんな人の忘れ物」
それは橙子さんが投げ捨てたハイヒールだった。
幹也はニヤリと笑って続ける。
「当人はこれで終わりと思っているでしょうが、まだ舞台は終わってませんよ」


「やっぱりハッピーエンドで終わらせないとね、喜劇シンデレラは」

ズル
ズル
ズル
道脇のどぶ川から這い出てきたものがある。
「次は・・・俺の番・・・だ」
そして学人は再び気絶した。

合掌。


あとがき

タイトルが思いつかなくてたった今2秒で決めたました。
いかがでしたでしょうか。
個人的に『秋巳刑事は黒桐家の血族なので只者ではない。
ただ幹也の只者でなさが一見では分かり難いのと同様に、しられていないだけだ』と思っているのですが、どうでしょう?
ついでに今作と前作でようやく秋隆祭りのころから個人的に胸に秘めて居た野望、
「巫条霧絵と秋巳大輔をメインとしたSSを書く」が達成されました。場を与えてくれた須啓様には感謝の言葉もありません。
学人?…ごめん、私の愛が足りません。
…あー学人君が何か言ってるけどあれは例の映画仕様なので気にしないで下さい。
祭りも終りですし。
どなたか学人祭りをやられるのであれば参加者が私一人でもかきますけどね。
あと今回の隠れコンセプトは橙子さんに精神的に「保護者」でなく「対等の立場」に立ってもらうことだったんですが
…自らの技量ゆえ何も言うまい。

今回、時間の都合で絵は有りません。楽しみにしてた人がもしいたら御免なさい。
それではお付き合いいただき、まことにありがとう御座いました。


ハロウィンTOPへ

魔術師の宴TOPへ