この物語にはあの死神・・・彼女は登場しない。

だがこの物語に出てくる死神もあるいは彼の者と同じなのかもしれない・・・

全く関係ないと思われる空っぽの境界線の裏側に・・・

あの死神は影を覗かせていた。

直接姿を現したわけではない。

特に何をしたわけでもない。

だが・・・彼(今回の物語では彼女はあくまで彼なのだ)が現れたと言うことは・・・

つまりはそういうことだ。

そして今回死神は主役足り得ない。

舞台に立つのはもう既に一度幕を引いたある魔術師。

いや・・・彼を表す言葉は多々ある。

芸術家、詐欺師、運命の失敗作、出来損ないの魔法使い、愚か者、アイスクリームのお化け

彼を顕わす言葉は多岐に渡る・・・

しかし・・・

もっとも彼を現すのにふさわしいのは・・・

やはりペパーミントの魔術師という呼び名であろう・・・

彼は天才で成功者でそして失敗者だ。

この物語を読む人々のうち、何人が彼のことを知っているだろうか・・・?

この物語を読む人々のうち、何人が彼のことを覚えているだろうか・・・?

誰も読まないかもしれない・・・

誰も知らないかもしれない・・・

だがそれでもこの物語を記すことは少なくとも私にとっては大切なことである。

そう・・・この物語は痛みという魔法を操る彼と・・・

至高の人形師たる傷んだ赤色・・・オレンジ色魔術師、蒼崎橙子の物語である。

それでは誰もいない、誰も見ない、意味など全くない物語の幕を

開かせていただくことにしよう。

 

オレンジとペパーミントの交錯

   〜two color wizards and others talking and crossing in the Halloween night〜

                  

 

※この物語はフィクションです実在の人物、団体、企業とは一切(たぶん・・・)関係ありません

 

 

「いい物が買えた・・・だがまた黒桐におこられるな・・・」

そう言って8:50発の列車に乗り込む。

右手にはオレンジ色のトランク

左手には今回の収穫。

我々が知っての通り、

我々の予測の通り、

今回彼女の買った物は、200万あった彼女の通帳の数字を一桁にまで急降下させるのに十分な物であった。

12世紀中頃、多くの血と死を啜って来た拷問器具・・・

魔術的効果などほとんどない趣味の品である。

まぁそれを此処で語っても意味など無いだろう・・・

故に省略させていただこう。

・・・そう言う訳で、彼女は途中で電車の運賃まで底をつき、彼女の事務所まで歩く羽目になったのである。

まぁ・・・入札に張りあってきた馬鹿がいなければ、彼女もこれほどまでに資金を浪費することもなかった。

そしてそれだけならば帰りの電車賃ぐらいは手元に残っていただろう。だが帰る途中で以前から捜していたすばらしい煙草を見つけてしまったのはいけなかった。

残り二箱だったこともあり、現金即決で買ってしまったのである。  

気づけば帰りの電車賃が足りなくなっていた。

全く運が悪いと言うしかない(と本人は思っている)

「道はこの道で合ってるのかい?」

「そうだと思いますが」

「どうも・・・・」

道を聞いた後、そのまま歩いていく、もう足が棒だ。

胃の中にはもちろん何も入ってはいない。

いくらこの体が人形だからと言ってオリジナルの蒼崎橙子と寸分変わらない人形である。

疲れもすれば腹も減る。

警戒用に持ってきたトランクと、馬鹿重い今回の買い物は、

ずっしりと両腕の中で存在を主張している。

戦闘用の使い魔はこんな時微塵も役に立たない・・・

「・・・くそ・・・・」

それだけ言って日陰の中に座り込む。

胸ポケットから煙草とライターを探り、しばしの休息に・・・・・・

浸れなかった。

「・・・ああ・・・・くそ」

既に煙草の箱は空っぽだ。

人間こうゆう時は思考が単調になる。

気を紛らわせるのに特に数を気にしていなかったのが仇となった。

いつのまにか全て吸ってしまっていたらしい。

「はぁーーーーー」

大きなため息を一つ・・・

吸えないとなると余計に吸いたくなる。

それがヘビースモーカーの運命(さだめ)である・・・

本気で近くにある煙草の自販機を壊そうかな〜と考え始めたとき、そいつは現れた。

「・・・・はいかがですかァ?」

という耳元でそんな呑気な声をかけられたので驚いて飛び退いてしまった橙子・・・

・・・気配はなかった何時の間に?・・・

そんな彼女の疑問を受け流すかのように・・・

そのサンドイッチマンらしき道化はにこにことあの彼を彷彿とさせる笑顔を浮かべている。

「何者だ?お前・・・一体どこから」

「いやですねぇずっといましたよ・・・それよりどうです?おひとつ」

その道化は顔にペパーミントのメイクをしている。顔の造形も悪くない方だろう・・・

「今度出る、特別製の新しいアイスなんですよ。味見をしてみませんか?」

「金なんて持ってない・・・他を当たってくれ」

道化はふはははと音を立てて笑った後・・・

「お代なんていりませんよ。これは御試しようの特別製だっていったでしょう」

・・・御試しようだとは言ってなかった・・・

腹を抱えて笑った後・・・道化はコーンにアイスを盛りつけた。

そして片手を振り上げ仰々しく、

「さぁどうぞ!あなた様だけの為に特別にさる魔法使いが自らの一生をかけて作り出した。至高の一品!さささ、どうぞどうぞお食べなさい。氷の魔法がかかったアイスここで溶け消えてしまっては魔法使いも浮かばれません」

なんて売り文句なのかどうかよく分からない言葉を吐いた。

道化の口調はひたすらに軽薄で信頼性のかけらもない。

なんとなく詐欺師の印象がある。

しかもよりによって彼女の前で魔法使いなどとは・・・

まぁ盛りつけたアイスが溶けてしまうのももったいないし、

少しでも煙草の代わりにはなるだろう。

「そうか・・・では頂こう・・・」

手を伸ばした。

「ささ、どうぞおひとつ」

酌じゃないんだろうに・・・

そんなことを思いながら手の中のアイスを見つめた。

「オレンジシャーベット・・・」

アイスまでオレンジ色とはまさしく自分にぴったりじゃないかと・・・自嘲的な考えが頭を過ぎる

一瞬道化の顔にそれまでとは違うものがよぎり・・・

「オレンジシャーベット・・・あなたの原点たる痛みはこのオレンジ色のアイスに詰まっています。人は何故お菓子を作り出したのか、何故今も作り続けているのか、それは・・・自分の心にある痛みを少しでも忘れるため・・・運命の失敗作たる魔法使いはいつもその間隙に住んでいる」

「はっ?」

突然とんちんかんなことを言い始めた道化・・・

何か釈然としない。

だがどうも毒は入っていないようだし・・・

少しくらいは食べてみよう・・・

そう思ってアイスを軽く舐めた、

口の中に広がる酸味、

突き刺すような酸味

軽い苦みと

そして最後に優しい甘み

零れる涙・・・

彼女は泣いていた。

そう・・・本来なら物語は此処で終わりである。

彼女の心に去来した物を我々は知ることが出来ない。

だが・・・

運悪く彼女は魔術師だった

運良く彼は魔術師だった

自然に零れる涙を拭うこともせず・・・

彼女はがっしりと道化・・・いや魔術師の腕を掴んでいる。

「驚いた、僕が見えるのかい!?」

道化の化粧に覆われた顔が酷く驚いた表情を見せる。

「かろうじて・・な・・・魔眼が無ければ見えなかった・・・お前・・・一体何者だ!?」

魔術師の問いかけ・・・

「僕かい?・・・僕は・・・」

彼はペパーミントの魔術師と名乗った。

 

 

「へぇーそんなことがあったのかい」

今、魔術師の持っていたわずかばかりの金で電車に乗っている。

元々歩き通しで3日ほどの距離で迎えを呼ぶのはしゃくだったので歩いていた訳だが、

今はそれよりも落ち着いて話せる場所が欲しかった。

そのためこうして金を借り、電車に乗っているというわけだ。  

私達はとつとつと・・・しかし絶え間なくお互いのことを語った。

式のこと・・・

織のこと・・・

対極の具現者のこと・・・

一旦話に区切りがつくと自然に相手の話に切り替わる。

アイスクリームのこと・・・

彼の姿のこと・・・

彼の能力のこと・・・

本当に色々なことを話した。

話は一連の事件に留まらず果ては私の学院時代のことにまで及んだ。

これほどまで話したのは久しぶりだった。

自分でも何故こんなに話したのかよく分からない、

とにかく私はこの魔術師と長い、長い話を交わした。

「へぇ、黒いコートの魔術師か・・・まるであの死神みたいだ・・・」

「ん・・・?黒い死神だと」

「ああ・・・うん、たしか名前をブギーポップって言ったっけ」

「ブギーポップ・・・不気味な泡か、すまないがもう少し詳しく聞かせてくれ」

眼鏡の奥の眼差しが自然と厳しくなるのが自分でも分かる。

「ああ、最後に会ったんだ。『その死神は世界の危機に現れて危機が去ると消えていく自動的ではかなげな泡の様な奴』・・・自分は会っただけで、詳しいことは知人の受け売りだけどね」

「・・・・・・」

「黒いコートに黒い帽子、マントを止めているのは白と黒の・・・ええと何だろうな、まぁいいやよく分からない模様のバッチみたいな物で止めていて、それには縁取りがついていた」

「・・・・・・」

「そして・・・顔の半分だけ笑うんだ・・・いや・・・笑っていると言うより顔を笑いの形にしていると言った方がちかいかな」

彼の語った話は私に驚愕を与えた。

「アラヤの怪物か?・・・しかし何故わざわざそんな姿で現れる、あれは本来形無くそんな形を取ることは今まで無かったし、無いはずだ」

「橙子・・・?」

「いや、アラヤの端末か?今まで聞いたこともないが存在しても不思議ではない・・・」

「橙子」

「自動的というのが気になる。何にせよ一度会っておいた方がいいだろう」

「橙子!」

「ん・・ああ・・・すまんな少し考え事をしていた」

「一体あの死神・・・ブギーポップは一体何なんだろう」

「さぁ、予想は言えるが、真相は私にも分からない」

「うん・・・知らない方がいいのかもね・・・あの死神の痛みは分からなかったから」

「ああ・・・“痛み”の話かそう言えば私の痛みはどんななんだ?」

「さぁ・・・わからないよ自分はもう痛みをアイスのイメージに置き換えているから・・・でもあなたはオレンジシャーベットだと思ったんだ・・・なんとなく・・・」

「なんとなくだって?言ってることが矛盾してるぞ」

ペパーミントの魔術師は少し困った顔をしてから、

「ああ、だから君に声を掛けたんだ。あなたのイメージはなんとなくしか分からなかったから・・・こんなことはこれが二度目だ」

何となく思い当たる節があり私は頷いた。

そしてまたとつとつと会話は続いた。

 

 

一週間ぶりに橙子さんが帰ってきた。

どこかのオークションでまたなんか買ってきたらしい。

買う事自体は別にかまわないが、そのせいで僕の給料まで圧迫するのは止めて貰いたい。

ただでさえ少ない給料なのに。これ以上減らされたらホントに生活出来なくなる。

将来、必要になるかもしれないから貯金もしなきゃならないし・・・

「こんにちわ、君が黒桐くんかい?」

いきなり挨拶をされて戸惑う、思考してたから人が来てたののに気付かなかったようだ。

「あっ・・はい、そうですよ」

なんて当たり障りのない返事を返す。

目の前にはどう見てもサーカスのクラウンとしか見えない男性が一人。

このピエロの格好をした人物は・・・橙子さんの客人だそうだ。なんでこんな格好をしているんだろう?

「変わっているね・・・君は・・・“痛み”がない人なんて初めて見た」

一体何の話だろう?

「はっ?」

思わず間抜けな声を上げてしまった。

「いや・・・なんでもない、忘れてくれ僕はペパーミントの魔術師・・・でもこれじゃわかんないだろうから、軌川十助と呼んでくれ」

「あっ・・・はいこんにちわ」

軌川十助といえば五年前くらいに有名だったアイスチェーン店の社長だ。そこへは式といっしょに一度だけ行ったことがある。美味しかったからまたこようと言ってたんだけど例のごたごたで機会を無くしその間に潰れてしまった

「実は初めてで悪いけど・・・君に頼みがあるんだ」

「いいですよ。僕に出来ることなら」

かくして僕はその人から捜し物を頼まれることになったのである。

でもその変わりに僕の頼みの聞いて貰ったけど。

その人の目的にあってたみたいで

『ちょうどいいや快く引き受けるよ」

という返事を貰うことが出来た。

用件が終わるとその人はそのままとことこ歩いていって次は式に話しかけている。

式は酷く驚いた表情を見せ、一瞬凄く恐い顔・・・たたかいの時の顔だ・・・になったけどすぐにその表情は引いていった

二言三言話してから、今度は鮮花へ・・・

一体何を話したのか気にはなったけど、

特に聞く必要もなかったので聞かなかった。

 

 

「お〜い学人こっち頼む」

「おお任せろ」

重い木材を運んでいく学人・・・・さすが学人、名前の割にすごく体育会系なだけはある。あれだけの木材を持っても平然としている。

「それにしても・・・一体どうやったらこれだけの人数の工事のおっちゃんたちが集まるんだ?」

「なんだ・・・そんなことか」

大したことじゃないのにと、はははと笑う。

「一言電話入れたら快く了承してくれたよ。さすがに僕達だけじゃ無理だからね助かったよ」

「・・・・・」

沈黙する学人。

そうかもう全国規模のネットワークを・・・なんてぶつぶつ言っている。

「・・・ああ、そう言えばみんなはどうした?」

「ん・・・ああ仕事でこれない人たち以外はくるって言ってた」

「全くお前の人望には感服させられるよ」

軽薄な笑いを浮かべて木材を運んでいく。

少しずつできあがっていく建物。

祭はもうすぐそこだった。

「でも何だって今更こんな事を?いや楽しいからいいけどさ」

「うん・・・学園祭の続きをしたくてね・・・」

不思議そうに学人が訊ねてくる。

「何で学園祭なんだ?関係ないじゃねえのか、3年間ちゃんと終わったし」

そう・・・僕は学園祭にちゃんと3年間参加している、けど・・・

「うん・・・そうだけど式は学園祭に参加してないからね。みんなとの思い出をつくってあげたいんだ。丁度いい機会が出来たからハロウィンの夜のお祭りをね」

そう言うと学人はニタ〜と人の悪い笑みを浮かべ、

「お前よっぽど両儀にいかれてるらしいな、たった一人のためにそこまでするたぁ完全に惚れてる証拠だぜ」

まったくこうゆう所は学生の頃から全然変わっていない。

「そうだよ・・・僕は式が好きだ、完全にいかれちまってるよ」

よほど僕の言葉が意外だったのか学人は間抜けな顔で口を開け固まっている。

その足に自分で落としてしまった角材がクリーンヒットするのはその30秒後の事である。

 

 

そして祭の当日になった・・・

会場となったのは以前好評を博したテーマパークを改造したものである。ちなみにそのテーマパークは今は老朽化が進んだ為に別の場所に新しく建設し直し、それなりの好評を集めている。

その跡地を須啓という人物が買い上げたそうだ。

その人は秋隆さんの友人でオーナーで使用権を快く使わせてくれたらしい。

はっきり言って善意に甘えて此処まで手を加えてしまってよいものか少し不安だ。

今此処には予想より遙かに多くの人が集まっている、さらにこんな身内だけのイベントを一体どこで聞きつけてきたのか多くの出店まで並んでいる。

「なんか凄いことになっちゃったね・・・」

感嘆の声を漏らす。

ちなみに今、会場の中を僕達・・・式、橙子さん、鮮花、それに秋隆さんと回っている。

何故秋隆さんが居るかと言えば、友人と約束が有るらしい。

5人で会場の中を歩いていると・・・

「秋隆さ〜ん」

なんて声が遠くから聞こえてきた。

辺りを見回してみると・・・東入り口に2人の人が立っていて、そのうち一人が手を振っている。

手を振っている女性は・・・以前見たことがある。

少し大きめの黄色のセーターに紺のジーンズ、後ろで束ねた少し長めの髪がよく似合っている。

そして居るだけで場の空気が花が咲いたように明るくなる・・・

以前秋子の部屋で見たかすがさんその人であった。

「あっきたかさ〜ん」

ゴズ

秋隆さんの鳩尾にかすがさんの有馬流八極拳奥義鉄山烈震掌が炸裂!素晴らしい震脚が体中の力を一点に集め都古ちゃんのものにも勝るとも劣らない一撃であった。

「ぐ・・・や・・・やりますねかすがさ・・・」

「ペガサス彗星拳!!」

さらにそのままの勢いで左手を秋隆さんの顔面にたたき込む。

そして最後に震脚でコンクリートにめり込んだ足を引き抜き、ネリチャギで崩れた頭部を狙う・・・メルブラで見たこと有るような無いようなコンボだった。

何故いきなり・・・いったい何を・・・?

「前の分(秋子の部屋)のお返し(はぁと)・・・じゃなくて修行の成果を・・・」

一体何の修行ですか・・・それよりさらっと人の心を読まないでください。

「素晴らしい上達ぶりです・・・かすがさん」

「有り難うございます秋隆さん」

もうけろっと回復している秋隆さん・・・この人も謎な人である。

あれ・・・そう言えば式は・・・?

そう思って辺りを見回す。

・・・式が脅えている!?

そう・・・鮮花の後ろで不安そうな瞳でこちらを見ている式は脅えているようにしか見えなかった。

でも・・・一体何に?

「あ〜式たんだ〜(はぁと」

ぽっ・・・と顔を赤らめながら振り向くかすがさん。

「萌え〜、式たん萌え〜〜〜」

だーーーーと一直線に式に向かってくるかすがさん。

「う・・・うわーーー」

本気で怖がる式・・・!?ちょっとナイフは危な・・・

しかし自分の心配は的はずれなものだった。

少し前までかすがさんのいた空間を式のナイフが薙ぐ。

しかしもうそこにはかすがさんは居なかった。

残像を残しながら跳躍、式のナイフをかいくぐりながら・・・ダメだ僕じゃあの速さをおえない。

「すばらしい・・・」

橙子さんは橙子さんでそんなことを言っている。

式のナイフを完全に無効化したかすがさんは思いっきり式に頬ずりしていた。

「式た〜ん・・・・ハァハァ」

ぐぅりぐぅりとえぐぅりこむように頬ずりしているかすがさん。

うらやましい・・・じゃなくて

「秋隆さん何なんですあの人の式を軽くあしらうほどの動きは!?」

ああそれですか・・・と簡単なことでも言うように秋隆さんは言った。

「かすがさまには式お嬢様の家庭教師をお願いして居るのです。知り合いの方で大学生の方(受験頑張れかすがさん応援してます!!)はなかなかいらっしゃらなかったので」

「それだけで何であんな動きが出来るんですか!?」

ああ・・・それですかと秋隆さん

「かすがさまたっての願いで修行におつきあいさせていただいたのですよ・・・『式たんに思いっきり頬ずりしたいのにさせてくれないんですよ秋隆さん』との事でしたので・・・」

いや・・・それでも・・・

「懐かしいですね、かすがさまと12宮を回ったり、滝に打たれたり、ジークフリードを一撃の下に屠ったりしたのは・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

なんて事をしているうちに

「ああ・・・満足・・・」

本当に満足そうな・・・そして幸せそうなかすがさんがこっちへ来た。

「幹也くん、幹也くん」

僕になんか用だろうか?

「何ですか?」

かすがさんはそっと耳打ちしてきた。

「式との事・・・頑張ってね」

げほげほげほ

びっくりしてせき込んでしまった。

「一体何をですか!?」

「そんなこと乙女の口から言わせるつもり?黒桐くん(はぁと」

ぽっと顔を赤らめながらかすがさんは言ってくる。

なんかこの前テレビで見たときより性格に余裕・・・かなそういうものが伺える。

口調もわざとらしいし・・・

僕がからかわれているところに、

「こんにちわ黒桐さん」

「はじめまして・・・」

橙子さんと話を終えた―――ごたごたの間に話していたらしい・・・残りの一人が僕の近くにやってきた。

ぴしっとしたYシャツを着こなしたサラリーマン風の男性である。

目の下に軽い隈が有る・・・仕事に忙殺されていたのだろうか?しかしそれなのに衣服にも頭髪にも一切の乱れを許していない。

目を細めて人の良い笑顔を浮かべるその人は何となく秋隆さんに似ているような気がする。

「紹介しますこちらの方が・・・」

と秋隆さん。

それから僕達は簡単な挨拶と自己紹介を交わした・・・

 

 

「あれ・・!?かすがさんじゃないですか?」

「はい・・・そうですけど・・・」

「ああ・・・やっぱりそうですか・・・初めましてhitoroです」

「あ〜、あのhitoroさんですか?・・・」

「はいそうです」

「ああ、それはそれはどうも・・・こんにちわ」

みんなで歩いているところで、いきなり屋台のあんちゃんから声を掛けられた。

ちなみに須啓さんは秋隆さんと話があるということなので先ほど別れた。

どうやら秋隆さんはこの祭の裏方をしていて、そのことで色々有るらしい

「いや〜バイトだったんですがまさかみなさんと会えるなんて・・・前秋子の部屋見てたんでひょっとしてかすがさん?って」

「ああ、そうなんですか大変ですね。でもだいぶ感じ違いますね現実だと」

「そうですか?あんま変わらないと思うんですが・・・それよりもたこ焼きどうです?おごりますよ♪」

「そうですか、じゃあ・・・有り難く頂かせていただきます!」

「あいよ、たこ焼き5つ!」

僕には全く理解不能なやりとりをしたあと、その人はたこ焼きを焼いていく。

じうじうという音を立てながらたこ焼きが焼けていく、既に焼いてあった分のたこ焼きと横に置いてあるソースの香りが食欲を誘う。

「あれ!?・・・あーー鰹節切れてるよ。しょうがねぇ」

「真さ〜ん」

「はい、なんだい」

奥から出てきたのはポロシャツに黒いエプロンをした男性である。

フレームレスの眼鏡を掛けて、髪に寝癖が着いていることから・・・仮眠を取っていたのだろう。

「鰹節切れちゃって・・・啓太に連絡取って下さい、買い出しに行ってるから鰹節も頼んで・・・」

「うん、分かったよ」

その前にかすがさんに気づき・・・軽く会釈してから、携帯電話を取りだして電話を掛けた。

「ああ・・・啓太・・・俺だけど・・・うん・・・鰹節切れちゃって・・・うん・・・じゃあ頼んだよ」

簡潔に話してから電話を切った。

「いや、すいません鰹節切れちゃって・・・」

申し訳ないとその人はぽりぽりと頭を掻く。

「それよりも・・・さっきの啓太って・・・湊啓太のことですか・・・?」

「ああ・・・そうだが・・・」

全員で顔を見合わせた

そう・・・たしか彼はあの事件の後警察に自首した。

罪の重さに耐えられなかったのか、それとも・・・何かしらの償いをしようとしたのか、僕としては後者と思いたい。

「ああ、そういうことか・・・話は聞いてる。あいつねしばらく年少入ってたんだけど。法律の可決前だったから案外早く出てきてね」

ふぅと息を吐き出す、長い長いため息。

「知らなくても無理はない・・・それでまじめに働いてきちんと謝るまで顔向けできないって言ってたよ。なんだかんだでアイツも苦しんだんだな・・・もちろんそれだけのことをやったんだ相当の償いはしなくちゃならない」

「・・・・・・・」

「それで秋巳刑事に頼まれたんだ。保護観察として同じ所で働いてた俺に白羽の矢がたったといういうわけ。アイツとは面識有ったし秋巳刑事ともそれなりに親しかったからな」

少し間をおいてから彼は続けた。

「今・・・アイツは此処で毎日汗だくで働いてる。一体何があったかは詳しく知らない、多分一般人の俺じゃきっと理解できないことが有ったんだろう・・・実際七人も死んでる、だけどアイツの償いたいと思う気持ちはきっと嘘じゃないと俺は思うよ」

そういって胸ポケットから煙草を取り出した。種類はマルボロのライト・・・きっとあまり重いのは今の気分では無いのだろう・・・普段吸わないであろう軽めのマルボロは、まだ封を切られてさえいない。

「どうぞ・・・」

「すみません・・・」

橙子さんのライターがチンッと軽い金属音を立てる。

ひたすらシンプルなメタリックオレンジのライターである。だが何か文字のようなものが刻んであった。総合すれば酷く派手で・・・そして珍しい。

紫煙を吐き出しながら・・・彼は・・・「すまん、後は頼む」と奥へ引っ込んでいった。

その後たこ焼きが焼き上がり、僕達ははふはふ言いながらそれを食べた。

・・・あの事件にもほんのわずかばかりの救いが有ったかと思うとほんの少しだけ慰められた。

 

 

鮮花が待ち合わせの人物を迎えに行った後・・・

「アオザキ!」

いきなり呼び止められ肩を掴まれた。、まったく失礼な輩もいるも・・・

その状態で私の思考は停止してしまった。

なぜならば・・・

「アルバ・・・」

そう・・・赤いコートの魔術師・・・死んだはずのコルネリウス・アルバが立っていたからだ。

私を含めた全員が酷く驚いた顔でその赤いコートの魔術師を見つめている。

特に・・・

「ア・・・ルバ・・・様・・・」

かすがさんの様子が尋常ではなかった。なんだよアルバ如きに“様”って。

完全に少女漫画しながらかすがさんは・・・

「アルバ様・・・私を貴方のお嫁さんにして下さい(はぁと」

式の時とは違う・・・頬を真っ赤に染め、瞳をうるうる、右手で口元を押さえ、視線はアルバの胸元辺り・・・完璧に恋する乙女の構図だった。

全員がうわーーって目をしながらアルバとかすがさんの間に生まれた異世界を凝視する。むしろ固有結界クラスだった。

そんな視線を知ってか知らずか・・・

「おお、麗しいお嬢さん、貴方の気持ちはとても嬉しい」

仰々しい仕草で天を仰ぐアルバ

「では・・・」

「嗚呼、しかし私は魔術の道を歩む者、いくら望もうと貴方の思いに応えることは出来ません」

またまたおーばーりあくしょん・・・全くこいつの一言一言には虫酸が走る。

「しかし・・・お嬢さん君にはこの赤い薔薇がよく似合う、私は貴方のためにこの薔薇と口づけを捧げます。」

赤いコートから取り出したのはこれまた真っ赤な薔薇の花束。

それを渡したあと、膝をつき、かすがさんの手の甲に唇当てる。

「アルバ・・・様・・・」

感極まったと思わしきかすがさんの声、頬には一筋の雫が零れた。

「おっと、麗しい乙女を泣かせてしまったか・・・」

涙をその赤いコートの裾で拭った。

―――間違いない、この癪に障る仕草や仰々しく気障ったらしい言動は・・・この赤いコートの男は私の学院時代のコルネリウス・アルバだと告げている。

だがアイツは・・・アルバは確かに死んだ。

私の使い魔に・・・いっぺんの肉片も残さず喰い殺された。

そのアルバが何故此処にいる!?

「おっと、アオザキお前は死んだはずだなんてお決まりな言葉はよしてくれよ、その言葉はあんまりにも皮肉じゃないか」

かすがさんを抱きかかえ・・・お姫様だっことも言う・・・ながらソイツはクックと笑った。

私の頭には有る一つの可能性が浮かんでいる。だがあのアルバがそんなことが可能だとはどうしても思えなかった

「一体お前は何者だ?原型(オリジナル)ではあるまいが・・・その行動はアルバそのままだ・・・」

ふむ・・・と唸ってから、

君なら分かると思ったんだがねと・・・ソイツは言った。

凄くむかついた。

「無論・・・私はコルネリウス=アルバであってコルネリウス=アルバではない・・・コルネリウス=アルバのかわりだよ、君と同じくね」

なんて皮肉・・・ソイツは私がアルバに言ったそのままの言葉を返してきた。

「嘘をつけ、アルバなんぞにそこまで完全な人形がつくれるはず無いだろう」

ソイツはもう一度、うむ・・と唸ってから・・・

「それは今語るべきではない・・・今宵、4人の魔術師が集うとき会合の席を設けよう」

相変わらず大げさな言い回し、だがソイツの言った言葉が気になった。

「4人だと・・・」

「ああ、そうだ赤、黒、ペパーミントに・・・そして君、傷んだ赤、4色の魔術・・・」

「出ろ」

例え奴が何者であろうと私をその名で呼ぶ者は許さない。

ライターの火を付ける。

それだけならばただのライターだ―――だが魔力回路を接続することによって必殺の使い魔へと姿を変える。

炎はいつかの影絵の魔物・・・荒耶に倒された私の使い魔と同じシルエットを取った。

これは私の新作である。携帯性を重視し奇襲と護身目的のものだが・・・アルバにはこれで十分だろう。

幾つかの能力では以前のものに大きく劣るが十分すぎるほどに強力だ・・・

炎のネコは音もなく巨大な口を開けアルバを飲み込んだ。

「言ったはずだ・・・私は私をその名で呼んだ者を許さない」

轟々と燃える炎まず助かるまい、

しかし、

「イグジスト(此処に発現せよ)」

小さな呟きが響いた・・・

まるで何もなかったかのように赤いコートの魔術師は使い魔を吹き飛ばし微塵の欠片にしてしまった。

「馬鹿な・・・」

使い魔が破れたことにではなく、アルバがそれほどの事をしたことに驚いた。

こいつは赤ザコだからこそアルバなのだ・・・ザコじゃなかったり赤くなかったらアルバじゃない。

「全く・・・人の話は最後まで聞きたまえよ。アオザキ」

ぱんぱんとほこりを払いながらアルバ。

「・・・邪魔だな」

そう言うと再生中の使い魔に掌を向けた。

「闇は喰らえ ・ 己が貪りし牙をもって ・ 光ならば解き放たれよ ・ 己が虚ろなる形にたちかえれ ・ 問う事はあたわじ ・ 終焉の運命は明白なり! 我が身こそ滅び ・ 汝果て無き場所にて眠れ・・・」

以前とは収束する魔力の桁が違う!?

「みんな伏せろ!」

逃げるのは間に合わない・・・全員で地に伏せた。

「我を存かすはただ世界のみ ・ 全てにの後に、汝 ・ ここに、殲滅は必定なり・・・」

むしろそれは優しかったろう・・・

火炎も爆発も破壊力さえ無かった。

しかし・・・私の使い魔は最初から居なかったかのようにふっと姿を消している。

握りしめていたライターさえなくなっていた。

「貴様・・・何者だ!?」

少なくとも・・・私の知っているアルバはこんな芸当は1000年・・・いや1万年かかっても無理な男である。

「知りたいならば来るがいい、今宵、酸の雨で爛れし鉄屑の城で君を待つ」

ばさっっと赤いコートを翻らせて去っていくアルバ。

追うとしたが止めた。

人払いの結界がしかれている・・・全く気づかなかった・・・

私が戦慄を隠しきれ無かった・・・煙草がまずい

ふと横を見るとかすがさんがアルバ好みの赤い・・・酷く派手な(レースでふりふり)ウエディングドレスを着て倒れていた・・・・

 

 

私は友人の浅上藤乃を待っている。

約束の時間までは後10分ほどである。

「志〜貴」

「まちなさいこのあーぱー吸血鬼」

「しっかりしてください兄さん」

「あ・・・その・・・」

「志貴さんアイスクリームが美味しいらしいですよ」

「志貴さま・・・」

目の前をにぎやかな6人組が通過していった。

そりゃ・・・本当は私だって幹也と一緒に回りたい。

でも、あの話の顛末は聞いているしあんな話を聞いた後じゃ・・・

式と藤乃を会わせるのもどうかと思う。

あ〜ぁ何時だって私は貧乏くじだ。

そんなことを考えているところへ・・・

「黒桐鮮花さん」

「わっ・・・すいません」

いきなり声を掛けられて、驚いて情けない声を出してしまう。

「あ・・・確か、秋隆さんの友人の・・・須啓さんでしたしたよね」

「覚えておいていただけて光栄ですね」

その人はぽりぽりと頭を掻いた。

「・・・・・」

話が続かない。

辺りはガヤガヤとしているのに・・・私達の周りだけはまるで沈黙のカーテンが覆っているようだ・・・・

「・・・何か・・・話しませんか?・・・そうですね、貴女の話でも・・・ねぇ鮮花さん」

何故だろう・・・秋隆さんと似たような雰囲気のその人が、

一瞬だけでも幹也と重なって見えただなんて・・・

「あ・・・・」

その人はゆっくりと口を開いた。

「私達・・・私とかすがさんと真さんはこの世界の境界の外に身を置く者です。全て承知しています」

「・・・・・・・・」

この人は一体何の話を・・・考えてみて恐くなった。

「それで・・・貴女はどうするんですか?このまま式さんに幹也くんを取られるんですか?」

「え・・・」

その人は突然に・・・辛い・・・酷く辛い話をしてきた。

「・・・では質問を変えましょう。もし式さんと幹也くんが結婚するとき、貴女はどうするんですか?」

「それは・・・」

それは・・・私が最も恐れていて、絶対に考えないようにしていた可能性だった。

それは最もあり得る一つの未来だというのに・・・

「わ・・・私は・・・」

「どうするんです?力ずくで奪いますか?泣いて止めますか?ただ黙って耐えますか?」

「・・・・・」

なんでこんなにも意地悪な質問をしておいて、この人はそんなにも辛そうな顔をするんだろう・・・

その人はただひたすらに・・・悲しそうだった。

「私は・・・笑って見送りたいと・・・思います」

お互いのしばしの沈黙。

「何故ですか?」

静かに・・・しかし鋭くその人は聞いてくる。

「その前に式から奪えるならその方がいいでしょう・・・しかし結婚した後でも希望がないわけではないんです」

私はそんな答えを口にした。

その人はしばらく黙って居たけれど、こんな返答を返してきた。

「なるほど・・・分かっていたことですが、貴女は強い人だ。けれど・・・自分を騙してまで哀しみを我慢しないでいいんですよ」

「えっ」

この人は何をいってるんだろう・・・私は・・・

・・・・あれ・・・何で涙が出るんだろう。

「いいんです、貴女は強い人だから、誰にも―――貴女自身にさえも・・・貴女は甘えることが出来ない・・・」

その人は本当に悲しそうだった。

「泣いていいんですよ・・・悲しいときは。辛いって言っていいんですよ辛かったら」

涙が止まらない。

私の中から意味のない言葉が溢れてはその人の中に吸い込まれて消えていく。

私の涙は目から溢れて、その人の胸を濡らして消えていく。

「いいんですよ・・・」

優しいその人に頭を撫でられながら・・・私は生まれて始めて心から泣きじゃくった。

・・・・・・・・

「鮮花・・・」

「あれ?」

藤乃に声を掛けられた。

時計を見れば丁度約束の時間である。

あの人にすがって泣いたところまでは覚えている。

だがそこから先の記憶がない。

だがたった10分であれだけの事があったとは考えにくい。

まさか夢・・・?

「一体どうしたの?」

「ううん・・・何でもない」

まるで、夏の青空のように私の心は晴れ晴れとしてた。

うん・・・まるで胸に支えていたおもりがなくなった感じだ。

あれが夢だったかどうかなんて関係ない、私・・・黒桐鮮花にとってあれは間違いなく真実だった。

「いこっか」

友人の藤乃と一緒に歩き出す。なにか食べに行こう・・・

うん、さっき聞いたアイスクリームなんか良いだろう。

そして去っていく二人の少女。

「願わくば。彼の者におおくの幸あらんことを・・・」

それを電灯の上の黒い影―――誰かは言うまでもないだろう・・・が寂しそうな顔で何時までも見送っていた。

 

 

「ようこそアオザキ」

「貴様なんかに歓迎されるゆわれはないよ」

彼女の口調は穏やかだった・・・だがその奥には穏やかだからこそ分かる凄みが潜んでいる。

「つれないねぇアオザキ・・・まぁいい、今此処に魔術師の宴を始めようじゃないか!」

突然辺りが明るくなった。ライトが一度に着いたらしい。まぶしさに目を細める。

目が慣れた後、私の前には3人の魔術師が立っていた。

コルネリウス・アルバ

荒耶蓮蓮

そして・・・

ペパーミントの魔術師・・・ちなみに彼は今、道化の衣装を外している。

「一体これは何の冗談だ・・・アルバ?」

ソイツは優雅に椅子に腰を下ろすと・・・

「まぁ掛けたまえ。いつぞやと同じくサイダーでも飲みながら話そうじゃないか」

アルバの掛けている椅子の前のテーブル(というのもおこがましい品物だったが)には

いつぞや3人で飲み交わした林檎のサイダーとグラスが4つ置かれていた。

アルバと同じように座っていく他の2人・・・

しょうがないので私も座ることにした。

「では、我等の邂逅を・・・此処に祝して」

乾杯・・・などとやっているアルバを横にとっとと私はサイダーを飲む。

口の中に広がる林檎の酸味。

ほんのりと甘い口当たり。

そして心地よい刺激だけが残る。

いつぞや飲んだのと同じ、寸分違わぬ味だった。

「さぁ・・・アルバ話して貰おうか・・・貴様は何故人形として朽ちなかった」

「ふん・・・さすがアオザキ、君にはかなわないな」

この時・・・いつも同じの軽薄な笑いが、酷く滑稽にそして何故か寂しげに見えた。

「ご明察の通り、私はコリネリウス=アルバによって造られ、彼の助手をしていた自動人形(オートマタ)だ。この心臓は歯車で、この血液は水銀で、この瞳なんてガラス玉!出来損ないの人形さ」

「・・・・・」

「・・・・・」

荒耶はいつも通り仏頂面で一言も発していない。

客人においては(当然だが)全く話の展開を理解していない。

よってこの場に置いて話すのは私とアルバだけだ。

「そのオートマタが・・・何故此処にいる?アルバにそれほどの腕があるようには思えない、おおかた誰かが裏で糸を引いているのだろう?」

アルバはクックと笑った後・・・

「それは・・・少し違うよ・・・アオザキ」

と言ってきた。

「ではなんだというんだ?」

聞き返す私。

「私はね・・・自身が知覚した時点で・・・コルネリウス・アルバという人物の代わり足り得なかった。私を私なさしめたのは、私だけだいうことだ」

「な・・に・・・!?」

それは驚くべき事だった。

どこまで行っても人形は人形である。

規定された行動しかとり得る事はないのだ。

例外である私の場合は完全に蒼崎橙子と同一な器故である。

蒼崎橙子と寸分違わぬ器を造ったからこそ、私は蒼崎橙子として此処に存在している。

しかし、アルバなんぞにそんな高等なまねは出来うるはずはない。

「どうやら・・・コルネリウスの魂の欠片を私に埋め込んだ奴が居るらしい。私はそれ故に私になったのだろう」

「・・・・・」

「ちなみに荒耶の肉体は私がこの邂逅のために用意した。今一度の話のために・・・」

「うむ・・・我は荒耶宗蓮にして荒耶宗蓮でないもの・・・我は荒耶宗蓮の魂の欠片を抱きしハロウィンの夜の幻・・・」

「・・・・・」

なるほど、そういうわけか・・・

「オリジナルの言葉通り、我等は所詮本物でない2級品・・・一夜の幻と消えるだろう」

ああ・・・確かにアルバは言っていた、自我を持つ知性が自身を偽物と認識して正常に稼働できるはずはないと。

私は言った・・・自身が偽物と知れば崩壊する知性など二級品だと。

なんて事だろう。

今、あの言葉の通り、本物より遙かに優れたこの人形達は崩壊しようとしているのだ。

彼らは偽物なのだから・・・

「それで・・・お前達の目的は何だ?最後の夜にオリジナルを殺した私に会いに来なくても、他にするとはいくらでもあったろうに・・・」

二人は軽く笑った。

あの荒耶が仏頂面で笑うのは酷く不気味ではあったが・・・

「ああ・・・オリジナルの望みを叶えただけさ。コルネリウス=アルバが最後に浮かべた風景は、あの日のバーでの語らいであったから」

「・・・・・」

「そしてもう一つが私の望み、ペパーミントの魔術師よ君に頼みがある。私の痛みを消してくれ、私はいささか疲れたよ。あの男を引きずり続けるのは・・・」

「!?・・・まさかお前」

「気にするな・・・“アルバ”という痛みを喪って、私は人形に還るだけ」

彼はアイスクリームを盛りつけてる、血のように赤いアイスと漆黒の色をしたアイス・・・

アルバと荒耶はそれらを手に取った。

「サヨウナラ、アオザキ君は君であったからこそ私の原型(コルネリウス=アルバ)は君に惹かれていたのだろう」

彼らは一口アイスを口に含むと、そのままごとりと床に崩れ落ちた。。

「全く、反則だよアルバ・・・」

最後の瞬間・・・私の唇を奪っていった人形に向けて私はそんなことを呟いた。

ほんとになんて勝手なんだろう―――言いたいことだけ言って私にこんな後味の悪さだけを残していくなんて・・・

そうか、これがアルバの復讐なのかもしれないなと思って私はひとしきり笑った。

 

 

 

祭も終わり始め、ハロウィンの一夜の夢を楽しんだ人々は、少しずつ家へと帰っていく。

露天もかき入れ時を過ぎ、撤収の用意を始める者もちらほらと見受けられる。

しかし、彼の店に人が絶えることはない。

「やぁ、いらっしゃい」

この店を飾っているのはハロウィンにふさわしいデフォルメされた怪物達である。狼男、吸血鬼、ジャック・オ・ランタン、黒桐幹也が探し出してきたのは・・・このチェーン店の装飾と彼の作業道具だった。

ジャクランタンに入れられたロウソクが、宵闇の中で淡く輝いている。

・・・やはり思い入れがあったのだろう。何故ならこの店は彼女と共に造った彼の王国だからである。

「チョコアイス二つ下さい」

「ごめんねチョコは切れてるんだ。そのうち材料が届くんだけど」

・・・こっちの子はバニラだけど・・・あっちの子はチョコだ・・・

じゃあしょうがないねと二人は別のものを注文した。

少女からお金を貰い、慣れた手つきでアイスをカップへとよそう。

ありがとーと去っていく少女達・・・その美味しそうにアイスを食べる姿が眩しかった。

・・・今度こそ失敗しない

以前・・・彼は自らの持つ力により、苦難の出来事を体験することとなった。

最後に残ったのは孤独だけ・・・

彼はたった一度のこの機会に出来るだけのことをしたかったのである。

もちろん出来るだけの事とは・・・出来るだけ人を幸せにする事である。

しかし・・・人の幸せを決めるのは自身に以外にはない。

魔術師が考え事をしている間も次々と列は流れていった。

いろいろの人たちにほんのちょっとの幸せを分けた。

それは・・・

白い吸血姫であったり、

過去という罪に縛られし少女であったり、

人形として過ごした少女であったりした、

彼女達の痛みは彼に・・・遠野志貴によって癒された。

けれど痛みがなくなったわけではない。

傷はふとしたひょうしにその爛れた傷口をさらすもの、

ならば痛みを忘れるのではなく・・・

小さな幸せで痛みを持って歩いていけるように背中を押してあげること。

それがこの行動の・・・この魔術師の答えである。

しばらくして列が途絶えた頃。

ソイツはひょっこりと顔を見せた。

「久しいね・・・」

「なんだお前か・・・」

そこにはあの時に死神が立っていた。

だが、その服装は同じでも纏っている人物は違っていた。

いつも人の良い笑顔を浮かべている彼はまるで・・・いや別人である。

そう、死神の衣装を纏っているのは他ならぬ黒桐幹也であった。

「君が幹也に浮かんでいるということは―――橙子の言ったように君は抑止力とか言う存在なのかい?」

魔術師の問いに・・・

ブギーポップは顔の半分だけ笑顔の形の歪めると、

こう言った。

「さぁ・・・分からないよ僕は自動的だからね」

「結局それか・・・」

魔術師は、はぁとため息をついた。

「それで・・・今回君は何をしたんだ?橙子の話じゃ荒耶っていう魔術師をとめたのかい?」

「いや・・・彼は世界の危機足り得なかったんだ」

「じゃあ・・・?何をしたんだ」

何時しかあたりは闇の中・・・もはや人影は二人だけ。

「今回僕はほとんど何もしちゃいない―――いやそれどころか・・・まともに浮かび上がって来たのもこれが初めてだ」

「じゃあ・・・何をしたんだい?」

それは本当に単純な、そして難解な答えだった。

「決まってる、彼を―――黒桐幹也を死なないようにさ・・・彼は人を傷つけることの出来る人間じゃなかったからね。あと、あの3人を呼んだのも僕だ」

「一体何でだい?」

「・・・それは自分で考えた方がいいだろう、僕はもう時間だから行くよ」

「全く、おまえはいつも大事なことだけを隠しているんだな・・・」

「・・・・・」

ブギーポップはしばし黙った後。

こんなセリフを残して去っていった。

「対極の具現者は世界の危機であって世界の敵じゃなかった、彼が死なない限り危機は来ないだろう。オレンジ色の魔術師にそう伝えておいてくれ」

そう言って死神は消えた。

魔術師は寂寞たる祭りの後に立ちながら・・・

この後、橙子に世話になるわけにはいかないな・・・

この後どこに行こうか?

行く前にとっておきにアイスを用意しよう・・・

彼女たちには何がいいかな?

などと考えながら歩き始めた。

結局、最後まで彼は他人の幸せを追って・・・

自分の幸せというものを手に入れようとしなかった。

否・・・手に入れようと思えなかった。

ゆっくりとしかし迅速に走り抜けた祭はまるでやがて溶けて消えてしまうアイスクリームの様だと、

彼は一人笑う。

その笑う道化の姿は・・・

どうしようもない滑稽で・・・

その歪んだ笑顔の裏に・・・

彼の哀しみと寂しさが含まれていることに誰も気づかない。

何故ならば彼はペパーミントの魔術師。

けして為しえることはない全ての人々を幸福にする魔法を使う魔法使いのなり損ない。

彼の力は痛みを忘れさせるだけ。

自分を幸せだと思わせるだけ。

それは果たして不幸なのか、それともむしろ幸せなのか・・・

そして誰もが彼を忘れていく・・・

その力には誰であろうとあらがえない。

彼を忘れた人々の間を縫い、彼は次の場所へと旅立っていく。

誰も彼もが彼にとっては他人となってしまう。

それは―――なんて孤独・・・

オレンジ色の魔術師も、

対極の具現者も、

火弾の射手も、

そして境界の内包者も・・・

全てが彼を忘れ去り、

彼は旅路へと帰っていく。

見送るは3人、

境界の外にいる者達。

哀しみをたたえた瞳で彼を見つめ・・・

一言も発せずに見送った。

孤独なる魔術師(どうけ)は去っていく。

ただ一人、つかの間の思い出(夢)に浸りながら。

 

〈Fin〉

 

パタン・・・

ふぅ・・・

筆を置いて彼は息をついた。

「終わったんですね・・・須啓さん」

「はい・・・」

その声は暗く、そして彼以外には知り得ないであろう苦悩を帯びていた。

「意味など無い物語、一体何のためです?」

彼はしばしの沈黙の後こういった。

「彼を弔うために、物語になにがしかの終わりを与えることによって・・・」

「・・・・では彼は・・・ペパーミントの魔術師は救われたのですか?」

彼女の問いかけ、その問いに彼は・・・

「さぁ?そんなことは分かりません・・・ですが私達は物書きです。何かを顕わすにはペンを以て当たるより他無いのですよ・・・」

そう言ってただ黙って立っていた人物―――真さんである、から煙草を受け取って火を付けた。

部屋に紫煙が立ち上る。

「さぁこれで仕上げです。全くもって意味など無い彼の孤独はこれで終わる」

そう言って彼はライターの火を書き上げたばかりの原稿に近づけた。

最初はちりちりと少しずつ、途中で一気に燃え上がり黒い灰になっていく物語。

「黒い灰は風に飛ばされて・・・

灰皿から窓の外へと飛んでいく。

窓の外には蒼い月。

10月の夜には不似合いな・・・

ハロウィンの夜の幻だけ。

まるで最初から何も無かったかのようで・・・

ハロウィンの夜は更けていく。

寂寞の欠片さえなくなったその後に・・・

月だけが3人を見下ろしていた。

そして誰もいない、誰も見ない、意味など全くない物語の幕は・・・

これで閉じた。

 

 

〈閉幕〉

 

 

 

 

 

こんにちわhitoroです

魔術師祭の自分の最後作品なんで気合い入れて書かせていただきました。

なぜかブギーポップとのクロスオーバー・・・

おかしいな最初はかすがさんのファイアーアザカっぽくなるはずだったのに

↓ちなみに一部分

 

須啓さん:「だめですそんなことでは立派な赤ザコのお嫁さんになれませんよ、もう1回」

かすがさん:「はい・・・黄昏よりも昏きもの、血の流れ・・・」

須啓さん:「だめだめ!メジャーすぎます」

かすがさん:「じゃあ・・・あの日曜の朝にやってる・・・」

須啓さん:「最近の知らないんですよ・・・というか子供番組じゃないですか」

かすがさん:「そうですか・・・まぁ・・・・私も見ませんが・・・」

須啓さん:「やはり、マハリク○マハリ○ヤンバ○ヤンヤン○ンとかエー○イム・エッ○イム・我は求めうったえたり!とかでしょうかね・・・」

かすがさん:「古ッ・・・そんなの誰も知らないですよ・・・汗」

須啓さん:「え〜・・・結構有名ですよ。特に前の方は・・・」

かすがさん:「じゃあ・・・我法を破り・理を越え・破壊の意志を此処に示す者なり・爆炎よ・爆炎よ・敵を焼け・敵を焦がせ・敵を滅ぼせ・我が勝利を此処に導け猛き業火ッ!ベルータ・エイム・クイファクイファ―――ッ!」

(以下略)

かすがさん:「イイイイイイイグジストオオオオオオアアアア―――ッ」

須啓さん:「・・・何ですかそれ?」

かすがさん:「知らないんだったらいいです」

hitoro:「ほんとは真さんと話してたアルバ専用の真っ赤なモールドとか出したかったんですけどね」

真さん:「そうですね・・・僕は天空満る所に我はあり、黄泉の門開くところに汝あり・・・とかもすきですよ」

須啓さん:「うわ・・・いきなりなんです!?」

真さん:「アルバ専用で速度三倍!!」

かすがさん:「うわーーいいですね〜背中には“愛ッ”でいきましょう(はぁと」

hitoro:「あっ・・・いいですねそれ」

須啓さん:「おーいもしもーし」

 

 

以上一部分でした。

うわ・・・だめだめじゃん

良かった〜こっちにしといて

ちなみに裏設定でアルバの魂を回収したのはかすがさんだったり・・・

荒耶の魂を蒐集したのは真さんだったり・・・

須啓さんはペパーミントの魔術師を橙子さんに合うようにし向けたりする話があったのですが・・・

時間の都合で・・・

うう・・・ちくしょう

途中でウイルスやら・・・

テストやら・・・

大変だった10月ももう終わりです。

最後になりましたが

かすが様、須啓様、真様。

こんな二流SSに名前を使用させていただき本当に有り難うございました。

また。設定を使わせていただいた方、

ウイルスの対処法を丁寧に教えて下さった方、

ありがとうございました。

最後にこの話を読んで頂いた全ての人たちに

感謝の言葉を贈らせていただきます。

 

 

ありがとうーーーー